新しい乳化方法による乳化の研究

本学、管理栄養士養成系大学にある佐塚研究室(食品栄養科学研究室)では、管理栄養士の先生とのコラボレーションで新しい食品開発を行っています。
このコラボレーションによる最新の研究はエネルギーとタンパク質の関係を明らかにした式「寒河江の式」(本研究チームでは、発見者の寒河江豊昭先生の名前を付けています)を応用した食品開発の研究です。

この「寒河江の式」の応用研究は非常に多岐にわたりますが、その研究テーマの一つに「水溶性の食品に食用油を混ぜる研究」があります。

一般に、水に油を混ぜる、もしくは油に水を混ぜることを乳化と言います。もちろん、水と油は、通常混ざらず分離してしまいますので、乳化剤という水と油を混ぜることができる物質を用います。乳化剤の例は卵のレシチンなどですが、身近な乳化物の食品はマヨネーズ(水の中に油が分散した乳化物)で、乳化によって作られている食品は結構多いのです。
実際、この乳化を利用した食品のほんの一例は、マヨネーズの他に、生クリーム、バター、マーガリンです。

ところで、皆さんは乳化の方法を知っていますか?先ほどのマヨネーズを作るときは、酢と卵黄を混ぜるのに泡だて器を使ったりしますよね?この泡だて器は刃が回転して素早く酢(化学的言えば薄い酢酸水溶液)と卵黄(油分を大体35%ほど含んでいます)を混ぜて卵黄レシチン(これが乳化剤)の力で乳化させます。
そして混ぜることで油と水と乳化剤が混然一体となって乳化現象(水と油が乳化剤を介して同居しているような状態)が起きます。

この混ぜる行為ですが、先ほど言ったように泡だて器には刃がついているので、この刃が高速で回転して液体をかき混ぜる・・・もっと言えば、高速で液体を切っているような状態が起きます。この刃でかき回すことで起きる流体の現象を(ちょっと難しい言葉を使うと)「せん断流」と言います。
つまり、泡だて器やブレンダーなど刃のついたものでかき回す(流体を作る)やり方を「せん断流による乳化」と言います。
乳化の方法はせん断流の他に液体をピストンなどで圧縮することで起きる「圧縮流」という流体で乳化させる方法があります。

さて、乳化の仕方には「せん断流」と「圧縮流」という方法があるといいましたが、この二つの方法には、ちょっとした欠点があります。いずれの方法も長いこと続けると熱が発生してしまうということです。場合によっては、乳化させる物質を発熱によって壊してしまう(=「熱変性」と言います)が起きて、結果、栄養成分が変化したり、味が変わってしまったりという弊害が起きることがあります。

大学はどんな小さいことでも世界で初めての研究を行うところなのですが、本研究室では新しい乳化の方法を利用した研究を近ごろ始めました。それが「伸長流を主とした複雑な流れによる乳化」です。そしてこの複雑な流れ場を作り出す新型の実験装置(大川原化工機株式会社製)を用いて、これまでとは違った「伸長流を主とした複雑な流れによる乳化」を試みています。

上でも言いましたが、「せん断流」と「圧縮流」は長く続けると、熱が出てしまい、その結果、乳化したい油(物質)が熱変性を起こしてしまいます。
一方、「伸長流を主とした複雑な流れ」は「せん断流」や「圧縮流」と同じ時間、乳化を行ってもはるかに熱の発生が少なくて済みます。そこで、これまで乳化しにくかった物質を、熱変性を起こさずに、乳化させることも可能かもしれません。
この研究を通じて例えば、「素材の風味を損なわないドレッシングの開発」や、何よりもっと・・・思いもよらない食品の開発などができるかもしれないと思っています・・・。

もし、食品に関する研究に興味のある方は、山形県立米沢栄養大学の本研究室をお尋ねくださいね。